奨学金返還支援は返す人の負担を誰かが肩代わりする仕組みの総称で、お金を出す側で「勤務先の企業」「自治体」「民間の財団」の3つに分かれます。企業が従業員の代わりに日本学生支援機構(JASSO)へ送金する代理返還は2021年4月に始まりました。自治体の支援は、内閣官房の令和7年度の調査で47都道府県と876市区町村が実施していると報告されています。
自分が返す側なら、見るのは自分の勤め先と住んでいる自治体の制度です。会社を経営する側なら代理返還を導入するやり方と、導入した企業に補助を出す自治体の制度を確かめます。この記事では3つのタイプの違いを先に整理し、そのあとに所得税や社会保険料の扱い、退職したときの扱いを一次情報にもとづいて書きました。募集中の制度の金額と締切、全国の一覧は記事の後半にあり、各制度の記事へ進めます。
奨学金返還支援制度の概要
企業・自治体・財団の3つのタイプの違い
奨学金返還支援は、誰がお金を出して誰が申請するかでタイプが分かれます。名前が似ているので混ざりやすい点です。
| タイプ | お金を出す人 | 申請する人 | 主な条件の例 | 向く人 |
|---|---|---|---|---|
| 企業の代理返還 | 勤務先の企業 | 企業(JASSOに利用申請) | 企業が決める(勤続年数・年齢など) | 導入している企業に勤める人・勤めたい人 |
| 自治体の支援(本人に支給) | 都道府県・市区町村 | 本人 | 域内に居住や就業、年齢の上限 | 住んでいる自治体に制度がある人 |
| 自治体の支援(企業を通じて支給) | 都道府県・市区町村 | 企業(補助金を申請) | 中小企業が従業員の返還を支援していること | 中小企業に勤める人・経営する人 |
| 財団の支援 | 民間の財団・公的な財団 | 本人(または企業と本人の登録) | 募集の対象の学年・分野など | 募集の条件に合う学生・若手 |
多くの人に関わるのは最初の2行です。3行目は自治体の制度ですが補助金を受け取るのは企業で、従業員は勤務先が制度を使っているかどうかが入口になります。この記事の下にある全国の一覧に出てくる制度は、3行目の企業向けの補助金が大半を占めます。
このほかに、県が貸与した奨学金を、医師として一定期間県内の医療機関で働くことで返還しなくてよくなる例のように、貸与そのものを免除する制度もあります。国税庁の文書回答事例にもこの種の制度の課税関係を扱ったものがあります。奨学金を後から肩代わりする返還支援とは別の制度で、この記事では扱いません。
国は何をしているのか
国が個人の返還額を直接支給する制度は、JASSOと内閣官房の案内には載っていません。国が関わっているのは次の3つです。
- JASSOが、企業から直接送金を受け付ける代理返還の窓口になっている
- 内閣官房が自治体の返還支援を若者の地方定着に有効な施策と位置づけ、実施状況を調べて公表している
- 地方公共団体が返還支援に使った経費を、特別交付税の対象にしている
特別交付税は総務省が地方に配る地方交付税の一つです。内閣官房の調査概要によると都道府県は地元産業界等と基金をつくった場合の出捐額が、市町村は支援に使った負担額(基金の設置は不要)が対象です。措置率は都道府県・市町村とも0.5で、上限は1億円と書かれています。20〜24歳人口が流入超過の道府県などでは措置率0.3、上限6千万円です。
措置率が0.5なので、対象になる経費の半分が国の財源に算入される計算です。自治体の側から見ると取り組みやすい設計で、実施する市区町村は年々増えています。国の制度として自分が申請できる返還支援を探している人は、先に自分の自治体を確かめるのが近道です。
実施する自治体の数と、いつから広がったか
内閣官房の令和7年度の調査では、返還支援に取り組む自治体は47都道府県と876市区町村でした(調査の基準日は令和7年6月1日です)。市区町村の実施割合は50.3%です。すべての都道府県と、市区町村のおよそ半分に広がりました。平成27年度は5県と97市町村だったので、10年ほどで大きく増えています。
令和6年度に自治体が返還支援を新たに始めた人は15,260人で、その年に支援を受けた人の総数は33,720人、支援の実績額は約88.0億円でした。支援を受ける人は毎年増えていて、支援実績額も令和2年度の13.5億円から令和6年度の88.0億円まで伸びています。
自治体ごとに「いつから」は違います。制度が始まった年度、募集の開始日、対象になる卒業年度はそれぞれの自治体の要綱で決まります。サジェストに出る「いつから」の疑問は、その自治体の公式ページで確かめるしかありません。企業の代理返還のほうは、JASSOの案内に「2021年4月より」とある日から利用できる制度です。
企業の代理返還
仕組みと、従業員が受け取るもの
JASSOの案内では代理返還は企業等が奨学金の返還残額の一部または全額を、従業員に代わってJASSOへ直接送金する制度です。対象はJASSOの貸与奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)を受けていた従業員です。企業が従業員に手当を支給する方法とは違い、お金は従業員の手元を通らず、返還の口座へ直接入ります。
従業員は、JASSOのスカラネット・パーソナルで企業からの入金を確かめられます。JASSOは代理返還は民法上の代位弁済とは異なり、企業が従業員に対して返還額を求めること(求償権の行使)は想定していないと書いています。企業が肩代わりした分を、あとから従業員に請求する仕組みではありません。
JASSOの企業向けサイトでは、令和8年3月末の数として、全国4,852社が制度を利用していると案内されています。業種も幅広く、大企業だけの制度ではありません。
企業側の手続きと費用
企業が使うときの順番は、JASSOの案内では次のとおりです。
- 企業が返還支援の対象にする従業員を決める
- 企業がJASSOに返還支援制度の利用を申請する
- JASSOが企業に、利用するためのIDとパスワードを発行する(電話かFAXで申請してから2週間以内を目途に郵送)
- 従業員がJASSOに「奨学金返還証明書」の発行を申請する
- JASSOが従業員に「奨学金返還証明書」を発行する
- 企業が証明書で返還残額を確かめ、支援する額を決める
送金の方法は「口座振替」か「払込取扱票」のどちらかです。口座振替では、毎月6日に登録した口座から支援額が引き落とされます。口座振替の場合は1件(債権)あたり135円(うち消費税額12円)の手数料がかかり、企業の負担です。口座振替で支援期間を登録できるのは支援開始年月から12か月以内に限られるので、1年が過ぎた従業員は登録し直します。
支援額が毎月の返還額(割賦金)に満たなくても、口座振替で支援できます。その場合は、割賦金と支援額の差が本人の口座から引き落とされます。払込取扱票の場合も、送金期日までに企業から送金があれば本人の口座から引き落とされません。期日に間に合わなかったときは本人の口座から引き落とされ、期日後の27日までに企業から送金があれば、引き落とされた分は繰上返還として処理されます。
対象になる人・ならない人
支援の対象は、原則として企業が直接雇用している人です。アルバイトなど直接雇用でない人を対象にするかどうかは、企業が決めるとJASSOは答えています。親会社が子会社の従業員を支援できるかどうかについても、原則は直接雇用の人が対象です。
返還期限猶予中の人と減額返還中の人は、原則として代理返還の対象になりません。支援を受けたい場合は、従業員がJASSOに「奨学金返還期限猶予短縮願」や「奨学金減額返還短縮願」を出す手続きが必要です。減額返還中は、企業が支援した月でも本人の口座から振替が行われることがあります。
休職や退職で支援を止めることはできます。JASSOのQ&Aでは企業からの送金がなくなると自動的に本人の口座からの振替が再開され、特段の届出は要らないと説明しています。退職すれば代理返還は止まり、残りは自分で返す形に戻ります。就職先を選ぶ段階で、退職時の扱いを企業の規程で確かめておくとあとで慌てずに済みます。
支援額の決め方の例(導入企業の声)
支援額や期間は企業が自由に決めます。JASSOの企業向けサイトに載っている導入企業の例は次のとおりです。
| 業種(所在地) | 支援の内容 |
|---|---|
| 宿泊業・飲食サービス業(東京都) | 毎月の返還月額と同額を支援。上限200万円・最大5年 |
| サービス業(東京都) | 毎月最大1.8万円。上限108万円・最大5年 |
| 情報通信業(北海道) | 在職10年目まで毎月最大1万円。11年目以降は返還が終わるまで毎月の返還額と同額(上限なし) |
| 建設業(福島県) | 毎月最大2万円。上限120万円・最大5年 |
求人票で「奨学金返還支援あり」と書かれていても、毎月いくらを何年支援するかは企業ごとに違います。応募する側は支援の上限と期間、対象になる年齢や勤続年数、退職したときの扱いを、選考のなかで確かめます。編集部は代理返還か、手当として従業員に支給して本人が返す方式かも聞いておくことを勧めます。JASSOは直接送金すると給与と返還額が区分される点を非課税の理由に挙げているため、方式で課税の扱いが変わる可能性があります(税の章で書きます)。
導入している企業の探し方
JASSOのサイトに、制度を導入している企業を「地域」「業種」「企業名」から探せる検索ページがあります。JASSOの企業向けサイトからも「全国の導入企業の検索」に進めます。企業側が検索の対象になることを望まない場合もあるので、載っていない会社が制度を持っていないとは限りません。気になる会社は、採用ページか人事に直接確かめます。
自治体の奨学金返還支援
本人に支給する型
住んでいる自治体や就職した地域の企業に勤める人に、自治体が返還額の一部を直接支給する型です。東京都西東京市の令和8年度の制度が例になります。
- 対象は令和8年4月1日時点で29歳以下で、補助対象期間に大学等を卒業して3年以内の人
- 補助額は返還した額の半額で、1期あたり上限5万円、年間最大10万円
- 補助対象期間は6か月ごとの第1期と第2期に分かれ、期ごとに申請が必要
- 市内に居住していること、他の返還支援を受けていないこと、市が実施するアンケートへの回答に協力することが申請資格に入っている
- 対象の奨学金はJASSOの第一種・第二種のほか、あしなが育英会や交通遺児育英会などの奨学金がある
- 元金のほか、利息も対象になる(遅延利息と延滞金、振込手数料は対象外)
西東京市は今就労していない人でも、奨学金を返していれば対象になると答えています。第2期の補助金は令和8年12月か令和9年1月に振り込む予定とされています。申請ごとに奨学金返還証明書と返還額証明書をJASSOに請求し、期間を指定して発行してもらう必要があるので申請の期限の前に余裕を持って手続きします。
この型は自治体によって条件が大きく違います。上の例のように卒業後の年数と年齢で絞るものもあれば、「就職した日から数年間、県内で就業し居住すれば後からまとめて支給する」ものもあります。自分の住所の自治体のページで、年齢・居住・就業の条件を読み比べます。
企業を通じて支給する型
自治体が従業員の奨学金返還を支援している中小企業に補助金を出し、従業員は勤務先から支援を受ける型です。JASSOのサイトには自治体による代理返還を実施している企業等への支援として、都道府県と市区町村の一覧ページがあります。
内閣官房の調査概要に載っている事例では宮城県が企業の返還支援額の1/2を補助し、広島県は従業員への給付額の2/3を補助しています(いずれも制度の詳細は各自治体に確認するよう注記されています)。愛知県みよし市のように、県の制度と市の制度を併用して合計8年間の補助を受けられる事例もあります。県の補助の交付決定を受けた企業を市がさらに補助する形は兵庫県洲本市や京都府八幡市、埼玉県秩父市にもあります。
この型では、従業員の立場で申請することはありません。勤務先が自治体の補助を使っているか、使う予定があるかを確かめます。企業の立場なら県と市の両方に補助があるかを調べ、申請の順番を確かめます。県の交付決定が市の補助の条件になっている場合があるためです。
条件の型:居住・就業・年齢・公務員
内閣官房の資料は、自治体が定める支援の要件の例として次の3つを挙げています。
- 出身地:「指定せず」か「保護者が当該自治体に居住」
- 就業・居住:当該自治体に居住(かつ、または就労)
- 返還支援額:返還額の1/3・1/2・2/3・1/1などの割合を指定して、別に上限額を設ける
鳥取県では無利子奨学金の返還総額か返還残額の1/2を助成し、大学院や薬学部の場合の上限は216万円です。三重県は借入奨学金残額の1/4(上限100万円)で、県内に居住かつ就業して4年経過した時点で1/3、8年経過後に残額を交付する形です。福島県は県内の事業所(公務員を除く)に就職した人が対象で、大学生等は5年間就業・定住したあとに貸与を受けた奨学金の2年間分を交付し、大学4年生の場合の上限は153.6万円です。
こうした制度では、公務員が対象外のものがあります。県の例のように「公務員を除く」と書く制度が実際にあるので自治体の職員や公立学校の教員になる予定の人は、先に募集要項の対象者の欄を読みます。年齢の上限は29歳以下、30歳未満、35歳未満などと制度ごとに違います。
各県・各市の個別の制度は、一覧の下にある制度の記事で条件と申請の流れを確かめられます。たとえば奈良県の奨学金返還支援事業補助金、埼玉県の奨学金返還支援補助金、岩手県の産業人材奨学金返還支援制度、岸和田市の奨学金返還助成金があります。
財団の奨学金返還支援
財団が行う返還支援には学生が応募して選ばれる型と、企業と学生が登録する型があります。
キーエンス財団の「貸与奨学金の返還支援」は、大学4年生が対象の募集型の制度です。JASSOの第一種・第二種の貸与奨学金が対象で、返還総額の50%をJASSOへ一括で返還します。卒業後の進路に制限はありません。応募は予備選考と本選考の2段階で、Webで登録し、学生証のコピー・成績証明書・卒業見込み証明書・指導教員の推薦書などを出します。募集の時期と人数は年度ごとに変わるので、財団のサイトで確かめます。
東京しごと財団の「中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業」は、建設・IT・ものづくり分野の都内中小企業等に就職した大学生等が対象です。企業と大学生等がそれぞれ登録し、技術者として採用された人が1年間継続して在籍したあと本人の申請を経て登録企業が選んだ負担額を出し、東京都も同額を負担します。奨学金返還費用の一部を最大3年間にわたって支援する仕組みです。東京都の奨学金返還支援事業の記事で詳しく確かめられます。
財団型は自治体の制度のような居住の条件がない代わりに、募集の人数や分野が限られます。自治体型や企業型と重ねて使えるかどうかは財団の募集要項と、重ねたい制度の要綱の両方で確かめます。
奨学金返還支援にかかる税金と社会保険料
検索で一番迷われるのが、支援を受けた額に税金がかかるかどうかです。タイプとお金の流れで扱いが変わるので、分けて書きます。
企業が代理返還した場合の所得税
JASSOは企業が直接JASSOに送金すると従業員の通常の給与と返還額が区分され、奨学金の返還であることが明確になるので返還額の所得税は非課税となり得ると説明しています。国税庁のタックスアンサー(No.2588)も使用人に学資に充てるための費用を支給する場合、次の要件を満たせば給与として課税しなくてよいとしています。
- 通常の給与に加算して支給する費用であること
- 法人の役員の学資に充てるための費用や、役員・使用人と特別の関係がある人の学資に充てるための費用ではないこと
国税庁は本来支給すべき給与を減らして、その額を学資金として支給する場合は給与として課税されると書いています。JASSOも給与規程等で給与に代えて奨学金返還を行う場合は報酬に含むとし、返還者が役員の場合など一定の場合には所得税の課税対象になることがあると注意しています。
奨学金の返済に充てるための給付については、国税庁の質疑応答事例があります。県が奨学金の貸与を受けている学生を対象に、一定の要件を満たした場合に返済に充てる支援金を給付し、県が貸与機関へ直接送金する事例について「学資に充てるため給付される金品」に該当するものとして取り扱って差し支えないと回答しています。理由として奨学金が学資に充てられていて給付が奨学金の返済に充てられる限り、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を免れる目的のものを除いて非課税の学資金と取り扱っても課税の公平を損なわないと説明しています。
つまり、お金が貸与機関へ直接送られること、通常の給与に代えたものでないこと、返済以外に流用されないことが非課税になり得る分かれ目です。自分の勤め先の制度がこれに当たるかは、会社の経理か税務署に確かめます。
自治体から本人に支給された場合の所得税
西東京市は、本人に支給した補助金について所得税の課税対象(雑所得)になると明記しています。他の雑所得の額などによっては確定申告が必要になる場合があるので、申告が要るかどうかは自分で確かめるよう案内しています。
国税庁の質疑応答事例は県が貸与機関へ直接送金する事例で、西東京市は本人へ交付する事例です。どちらの扱いも自治体や税務署の判断で決まるので同じ「自治体の返還支援」でも、お金が本人に渡るか貸与機関へ直接送られるかで課税の扱いが変わる可能性があります。申請する前に、その制度の募集案内にある課税の項目を読みます。編集部が調べた範囲では本人に支給するすべての自治体の制度について、課税の扱いを一覧で示した公的な資料は見つかりませんでした。
社会保険料の扱い
JASSOは、代理返還による返還金は原則として報酬に含めないと説明しています。標準報酬月額は社会保険料の算定のもとになるため、社会保険料を減らせる可能性があります。ただし給与規程等により給与に代えて奨学金返還を行う場合は報酬に含みます。
企業が手当として従業員に支給し、本人が自分で返す方式の社会保険料の扱いはJASSOの案内に記載がなく確認できませんでした。勤務先の制度がどちらの方式なのかを人事に聞き、社会保険料の扱いは年金事務所か社会保険労務士に確かめてください。同じ金額の支援でも、方式によって手取りと実際に返済に回せる額が変わる可能性があります。
企業側の税の扱い
JASSOは企業にとって代理返還は従業員の奨学金の返済に充てるための給付にあたり、給与として損金に算入できると説明しています。給与の支給額にも該当するので、一定の要件を満たす場合は「賃上げ促進税制」による法人税の税額控除を受けられます。
損金に算入されない場合もあります。役員給与(使用人兼務役員の役員部分を含む)は一定のものを除いて損金不算入で、過大な使用人給与も損金不算入です。インボイスについて、JASSOはホームページに記載の内容を担当者に渡す形で対応できるとQ&Aで答えています。会計処理の細かい扱いは、顧問の税理士に確かめてください。
奨学金返還支援の代表的な補助金の金額
国の制度と、上限の大きい都道府県・市区町村の制度を上限額で比べた表です(制度名を押すと下の全国一覧のその制度へ移ります)。表に並ぶ制度の多くは、企業が従業員の返還を支援したときに自治体が企業へ出す補助金です。従業員が直接受け取る制度は全国一覧で対象者の欄が「個人」になっているものと、各県の制度の記事で確かめます。
