「賃上げ補助金」と検索して探す制度の中心は、補助金ではなく厚生労働省(厚労省)の助成金です。時給を上げる中小企業なら業務改善助成金、パートや契約社員の基本給を上げるならキャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースを、まず確かめます。
令和8年度の業務改善助成金は事業場内最低賃金(その事業場で最も低い時給)を50円・70円・90円以上引き上げて設備投資をすると、費用の4/5または3/4が出る制度です。上限の最大600万円に届くのは、特例事業者が10人以上の賃金を引き上げる場合だけで、それ以外の事業者の上限は450万円です。
経済産業省(経産省)と中小企業庁の補助金には、賃上げを条件にした加点や上限の引き上げがあります。賃上げ促進税制は、給与の増え方に応じて法人税や所得税から最大35%を引きます。都道府県と市区町村にも独自の賃上げ支援金や、業務改善助成金への上乗せがあります。
この記事は先に制度の全体像と選び方を整理し、令和8年度に変わった点を厚労省と中小企業庁の公式資料で確かめました。そのあとに金額の比較、共通の注意点、都道府県ごとの一覧を載せています。自分の県の制度は一覧から各制度の記事へ進めます。
賃上げに使える補助金・助成金・税制の全体像
賃上げを後押しする公的な制度は、出し手で4つに分かれます。名前は「補助金」「助成金」「奨励金」「支援金」とばらばらですが、探す側から見れば同じ関心事です。
| 系統 | 出し手 | 代表的な制度 | 賃上げとの関係 |
|---|---|---|---|
| 助成金 | 厚生労働省(申請先は都道府県労働局など) | 業務改善助成金、キャリアアップ助成金、働き方改革推進支援助成金、人材開発支援助成金 | 賃金を上げること自体が要件か、加算の条件になる |
| 補助金 | 経済産業省・中小企業庁 | 省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金、持続化補助金、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、成長加速化補助金 | 賃上げに取り組む事業者に、上限の引き上げや加点がある |
| 税制 | 国(法人税・所得税) | 賃上げ促進税制 | 給与の増加額の一部を税額から引く |
| 自治体の制度 | 都道府県・市区町村 | 賃上げ環境整備補助金、賃金アップ支援金、業務改善助成金の上乗せ | 制度ごとに決まる |
補助金と助成金の違い
この記事では、出し手の違いで区別します。厚労省が出すものは「助成金」、経産省・中小企業庁が出すものは「補助金」と呼ばれるのが一般的です。自治体は同じ性質の制度に「補助金」「奨励金」「支援金」とさまざまな名前を付けます。
読者にとって大事な違いは、名前よりも「賃上げをいつやるか」と「何にお金が出るか」です。業務改善助成金は設備投資の費用に出ますが、賃上げは申請のあとに行います。キャリアアップ助成金は賃金規定を改定して実際に払った分に出ます。賃上げ促進税制は、払い終えた年度の申告で使います。
厚労省の「賃上げ」支援助成金パッケージのページ(令和8年度予算)には、業務改善助成金、働き方改革推進支援助成金、人材開発支援助成金、人材確保等支援助成金、キャリアアップ助成金、早期再就職支援等助成金、産業雇用安定助成金が並んでいます。中小企業庁の特設サイト「賃上げ・最低賃金対応支援特設サイト」でも、同じ助成金と補助金が一覧になっています。リーフレットやチラシも、この2つのサイトから取れます。
自社に合う制度の選び方
制度を選ぶ入口は、「何を上げるか」と「何に投資するか」の2つです。
| やりたいこと | まず見る制度 | 出し手 | 金額の決まり方 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 最低賃金に近い時給を50円以上上げ、設備も入れたい | 業務改善助成金 | 厚労省 | 設備費×助成率と、人数・引上げ額ごとの上限の低いほう | 賃金の引上げは申請より後。交付決定前の設備購入は対象外 |
| パート・契約社員の基本給を3%以上上げたい | キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース) | 厚労省 | 1人あたり4万〜7万円(中小企業) | キャリアアップ計画を実施日の前日までに出す |
| 非正規の人を正社員にしたい | キャリアアップ助成金(正社員化コース) | 厚労省 | 1人あたり最大80万円 | 転換後の賃金が転換前より3%以上増える必要がある |
| 残業を減らし、賃上げもしたい | 働き方改革推進支援助成金 | 厚労省 | コースと成果目標で決まる。賃上げで加算 | コースを選んで成果目標を達成する |
| 研修を実施し、そのあと賃上げもしたい | 人材開発支援助成金 | 厚労省 | 訓練内容と企業規模で決まる | 訓練終了後に賃上げをする |
| 設備・ITを入れて稼ぐ力を上げたい | 省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金など | 経産省・中小企業庁 | 補助率×対象経費。賃上げで上限が上がる制度もある | 賃上げ計画を出したあとに達成できなかったときの扱い |
| 払った給与が増えた分を税で軽くしたい | 賃上げ促進税制 | 国税 | 給与の増加額の15%〜35% | 青色申告であること |
| 自分の県・市の制度を使いたい | 自治体の賃上げ支援 | 都道府県・市区町村 | 制度ごと | 年度の途中で予算が尽きて終わる |
業務改善助成金とキャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースは、同じ労働者を両方の対象にはできません。厚労省のQ&Aに業務改善助成金で賃金引上げの対象にした労働者は、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の支給対象の人数に数えられないと書かれています。この点は「併用できるか」の章でもう一度説明します。
賃上げ補助金の条件
制度ごとに条件は違いますが、多くの制度に共通する条件は次のとおりです。
- 中小企業か小規模事業者であること(大企業と密接な関係を持つ「みなし大企業」は対象外になる制度が多い)
- 従業員を雇っていること(業務改善助成金は、労働者がいない場合は対象外)
- 賃上げの計画を実施の前に出すこと
- 雇用保険に入っている労働者の賃金を上げること(業務改善助成金の令和8年度の要件)
- 交付決定の前に設備を買ったり契約したりしないこと
みなし大企業とは、大企業が株式の一定割合を持つなどして実質的に大企業の支配下にある会社のことです。資本金や従業員数が中小企業の範囲でも、この扱いになると中小企業向けの制度は使えません。
業務改善助成金:最低賃金を上げて設備投資をする中小企業向け
業務改善助成金は事業場内最低賃金を一定額以上引き上げて、生産性を上げる設備投資などを行ったときに、その費用の一部が出る制度です。交付決定の前に設備を買うと対象外になるため、先に申請を済ませます。申請先は事業場がある都道府県の労働局(雇用環境・均等部室)で、Jグランツによる電子申請もできます。詳しい制度の説明は業務改善助成金の記事に、手順は業務改善助成金の申請方法の記事にまとめています。
令和8年度に変わった点
厚労省の「令和8年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ」(令和8年4月)で、令和7年度から次の点が変わっています。
| 項目 | 令和7年度 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| コース | 30円・45円・60円・90円の4コース | 50円・70円・90円の3コース |
| 助成率が4/5になる境目 | 引上げ前の事業場内最低賃金が1,000円未満 | 同じく1,050円未満 |
| 人数の区分 | 1人、2〜3人、4〜6人、7人以上 | 1人、2〜3人、4〜5人、6〜7人、8人以上 |
| 引き上げる対象の労働者 | (雇用保険の被保険者という限定なし) | 雇用保険の被保険者 |
| 助成対象経費の特例 | 自動車が対象になる場合があった | 自動車(特殊用途自動車を除く)は対象外 |
| 物価高騰等要件の申出書 | 最近3か月のうち任意の1か月の利益率 | 最近6か月の平均の利益率 |
助成率の切替ラインが1,000円から1,050円に動いたため、引上げ前の事業場内最低賃金が1,000円〜1,049円の事業場は、令和7年度なら3/4だったところが、令和8年度は4/5で計算できます。令和7年度の解説を見て「1,000円以上だから3/4」と判断すると、受け取れる額を低く見積もります。
上限額と助成率
助成される金額は設備投資などにかかった費用に助成率をかけた額と、助成上限額のうち、低いほうです。
助成率は、申請する事業場の引上げ前の事業場内最低賃金で決まります。1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4です。
助成上限額はコース(引き上げる額)と、引き上げる労働者の人数で決まります。厚労省のリーフレットの上限額表から、事業場規模が30人未満の事業者の分を載せます。
| 引き上げる労働者数 | 50円コース | 70円コース | 90円コース |
|---|---|---|---|
| 1人 | 40万円 | 50万円 | 100万円 |
| 2〜3人 | 70万円 | 100万円 | 240万円 |
| 4〜5人 | 70万円 | 130万円 | 270万円 |
| 6〜7人 | 90万円 | 180万円 | 360万円 |
| 8人以上 | 110万円 | 230万円 | 450万円 |
| 10人以上(特例事業者のみ) | 130万円 | 300万円 | 600万円 |
事業場規模が30人以上の事業者は、1人と2〜3人の区分だけ額が下がります。たとえば90円コースの2〜3人は、30人未満が240万円、30人以上が150万円です。4人以上の区分は規模による差がありません。
「最大600万円」はいちばん下の行の90円コース、10人以上の区分を指します。この区分は特例事業者だけが対象です。特例事業者でない事業者の上限は、8人以上の450万円までです。
計算例
厚労省のリーフレットには、次の計算例が載っています。事業場内最低賃金が1,040円なので助成率は4/5です。8人の労働者を1,130円まで引き上げる90円コースなので、上限は450万円です。設備投資などの額が600万円のとき、600万円×4/5=480万円と上限の450万円を比べて、低い450万円が支給されます。
同じ設備投資額でも、引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円になると結果が変わります。たとえば3人の時給を70円上げる事業者(事業場規模は30人未満)の上限は100万円です。設備投資が100万円なら、1,040円の事業場は80万円(4/5)、1,050円の事業場は75万円(3/4)です。厚労省のパッケージのページにも、事業場内最低賃金の労働者3人の時給を70円引き上げた場合は最大100万円と載っています。
実際の経費は見積もりで決まるため、設備投資に使える範囲は「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」です。厚労省のリーフレットにはPOSレジシステムの導入による在庫管理の短縮、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮、国家資格者による業務フローの見直し、顧客管理情報のシステム化などが対象経費の例として挙がっています。
特例事業者とは
次のどちらかに当てはまる事業者が特例事業者です。10人以上の区分を使えるのは特例事業者だけです。
- 賃金要件:申請する事業場の事業場内最低賃金が1,050円未満
- 物価高騰等要件:原材料費の高騰などの外的要因で、申請前6か月の平均の利益率が前年同期より3ポイント以上下がっている
物価高騰等要件に当てはまる場合は、助成対象経費も増えます。パソコン、スマートフォン、タブレットなどの端末と周辺機器の新規導入が、対象になります。申請のときに、事業活動の状況に関する申出書の提出が必要です。
申請の期間と、賃金を上げる時期
令和8年度の申請期間は令和8年9月1日から、申請する事業場の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日か同年11月30日のうち、早い日までです。都道府県によっては9月末が期限になります。厚労省は令和8年9月24日に、この点をあらためて周知しています。
賃金を上げる時期にも決まりがあります。賃金の引上げは、申請より後に行います。令和8年度は地域別最低賃金の改定日の前日までに賃金を上げ終えていても、そのあとに申請することはできません。
引上げは一度で行い、複数回に分けることは認められません。引上げ後の事業場内最低賃金の額は、就業規則などに定めます。
事業完了期限は、交付決定の年度の1月31日です。納品日、支払完了日、賃金引上げ日のうち、いちばん遅い日がこの期限までに収まる必要があります。やむを得ない理由があるときは、事前の申請で3月31日まで延ばせる場合があります。
つまずきやすい点
- 交付決定の前に設備を導入すると対象外になる
- 引き上げる労働者は、週の所定労働時間が20時間以上の雇用保険加入者に限られる
- 申請の時点で適用されている地域別最低賃金を下回っている事業場は対象外になる(厚労省のQ&A問6)
- 労働基準監督署の是正勧告を受けていると、申請できない期間がある
- 同一の事業場の申請は、年度内に1回まで
- 予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集が終わることがある
編集部としては、期限の前に事業場内最低賃金を計算し直すことを勧めます。事業場内最低賃金の計算では通勤手当、家族手当、賞与、残業代などの割増賃金は含めません。基本給と、毎月決まって払う手当が対象です。月給制や歩合給の計算が難しいときは、労働局に相談できます。
厚労省のページには注意喚起が載っています。厚労省から委託を受けたと名乗って助成金の活用を勧誘する事業者が確認されていますが、厚労省や労働局が特定の事業者に勧誘を委託することはありません。電話の窓口は業務改善助成金コールセンター(0120-366-440、平日9時〜17時)です。
キャリアアップ助成金:非正規の賃金を上げる・正社員にする
キャリアアップ助成金は有期雇用の人、短時間のパートの人、派遣の人といった非正規雇用の労働者の処遇を上げた事業主に出る助成金です。賃上げに関係するのは、主に賃金規定等改定コースと正社員化コースです。制度全体はキャリアアップ助成金の記事、いくらもらえるかはキャリアアップ助成金はいくらもらえるかの記事で説明しています。
賃金規定等改定コース
有期雇用労働者などの基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させたときに、1人あたりの額が出ます。厚労省の令和8年度のリーフレットでは、中小企業と大企業で額が違います。
| 賃金規定の増額改定の率 | 中小企業(1人) | 大企業(1人) |
|---|---|---|
| 3%以上4%未満 | 4万円 | 2.6万円 |
| 4%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
| 5%以上6%未満 | 6.5万円 | 4.3万円 |
| 6%以上 | 7万円 | 4.6万円 |
「職務評価」の手法を使って増額改定を実施した場合は、1事業所あたり20万円(大企業は15万円)が加算されます。有期雇用労働者などの昇給制度を新しく設けた場合も、1事業所あたり20万円(大企業は15万円)の加算です。
厚労省のパッケージのページには、中小企業が賃金規定等を5%増額改定して10人の有期雇用労働者の賃金を上げた場合は65万円と載っています。6.5万円×10人の計算です。
正社員化コース
有期雇用労働者を正規雇用に転換した場合の額は、重点支援対象者かどうかで違います。リーフレットの額(中小企業の場合)は、有期から正規で80万円(重点支援対象者)と40万円(それ以外)、無期から正規で40万円と20万円です。正社員への転換後6か月分の賃金は、転換前の6か月と比べて3%以上増える必要があります。
申請のタイミング
「キャリアアップ計画」を、各コースの実施日の前日までに出す必要があります。就業規則の改定などを済ませてから計画を出す順番にすると、助成の対象外になります。取組後6か月分の賃金を払った日の翌日から2か月以内に、支給の申請をします。
令和8年度のリーフレットに載っているコースは、正社員化コース、障害者正社員化コース、賃金規定等改定コース、賃金規定等共通化コース、賞与・退職金制度導入コース、短時間労働者労働時間延長支援コースです。以前あった社会保険適用時処遇改善コースは、このリーフレットにありません。古い解説に出てくるコース名は、公式サイトの令和8年度版で存在を確かめます。
賃金規定等改定コースの専用の説明は賃金規定等改定コースの記事にあります。
働き方改革推進支援助成金・人材開発支援助成金など、そのほかの助成金
厚労省の「賃上げ」支援助成金パッケージには、上の2つのほかに次の助成金が載っています。厚労省の掲載内容から、賃上げとの関係を整理します。
| 助成金 | 内容 | 賃上げとの関係 | 金額の目安(厚労省の掲載) |
|---|---|---|---|
| 働き方改革推進支援助成金 | 労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業に、外部専門家のコンサル、設備・機器の導入などの費用を助成 | 賃金を引き上げると加算がつく | 賃金引上げの加算は最大720万円、割増賃金率の引上げの加算は最大100万円 |
| 人材開発支援助成金 | 職務に関連した専門的な知識・技能を身につける訓練の経費や賃金の一部を助成 | 訓練後の賃上げで額が増える例がある | 例:正規雇用の1人に10時間の訓練(経費10万円)を実施し、終了後に賃上げをすると7万円 |
| 人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース) | 賃金規定制度などの導入や、作業負担を軽くする機器の導入で離職率を下げた事業主に助成 | 賃上げを行うと額が増える | 最大325万円 |
| 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース、中途採用拡大コース) | 離職を余儀なくされる人を無期雇用で雇い入れ、賃金を5%以上上げた場合などに助成 | 雇入れ前より5%以上賃上げ | 雇入れ支援コースは30万円または40万円、中途採用拡大コースは20万円(成長要件で加算) |
| 産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース) | 在籍型出向でスキルアップさせた事業主(出向元と出向先)に助成 | 復帰後の賃金が5%以上増える | 出向中の賃金の一部(中小企業は2/3)。出向者1人1日8,870円が上限 |
働き方改革推進支援助成金は、コースごとの記事があります。全体は働き方改革推進支援助成金の記事、労働時間の短縮に絞った説明は労働時間短縮コースの記事で確かめられます。建設業の事業場が設備投資などを実施して、36協定の時間外・休日労働の上限を引き下げた場合は、最大25〜550万円と厚労省のページに載っています。
人材開発支援助成金の全体は人材開発支援助成金の記事にあります。
補助金の賃上げ要件・加点(経産省・中小企業庁の補助金)
経産省・中小企業庁の補助金は賃上げをしたい事業者を応援する立場から、賃上げに取り組む事業者に有利な仕組みを設けています。中小企業庁の特設サイトには補助金によって、賃上げに積極的な事業者に補助金の上限額を引き上げる「特例」を設けたり、審査で有利になる「加点措置」を講じたりする制度があると書かれています。
令和8年9月4日の中小企業庁の発表(最低賃金引上げに対応する中小企業・小規模事業者への支援策)にも、各種補助金について、最低賃金の引上げを含めた賃上げを行う中小企業・小規模事業者に対する補助上限の引上げや加点措置を引き続き実施すると書かれています。
特設サイトの補助金一覧に載っている補助金から、賃上げと関係の深いものを選びます(補助上限額と補助率は同サイトの掲載)。
| 補助金 | 何に使うか | 補助上限額 | 補助率 | 特徴(同サイトの掲載) |
|---|---|---|---|---|
| 省力化投資補助金(カタログ注文型) | IoT・ロボットなど人手不足を解消する汎用製品の導入 | 1,500万円 | 1/2以下 | 登録製品は省力化効果が事前に審査されているため、書類が簡単 |
| 省力化投資補助金(一般型) | オーダーメイド性のある設備・システムの導入 | 1億円 | 1/2(小規模・再生事業者は2/3) | 大幅な賃上げを後押しする「大幅賃上げ特例」がある |
| デジタル化・AI導入補助金 | ITツール(ソフトウェア、サービス)の導入 | 450万円 | 1/2〜4/5 | 労働生産性の向上が目的 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 生産性向上の設備・システム、販路開拓 | 250万円 | 2/3 | 窓口は商工会・商工会議所 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 新製品・新サービスの開発、新市場への進出 | 9,000万円 | 1/2、2/3 | 新市場・高付加価値事業への進出などが対象 |
| 成長加速化補助金 | 売上高100億円超を目指す設備投資 | 5億円 | 1/2 | 新工場・新倉庫の建設費も対象 |
設備投資を伴う賃上げでは、業務改善助成金と補助金のどちらを使うかを最初に決めます。時給を引き上げることが主目的で設備は小さい事業者は、業務改善助成金の対象になります。数千万円規模の設備や新事業が中心の事業者は、補助金の賃上げ特例や加点の仕組みを使います。
賃上げ省力化の名が付く賃上げ省力化大規模成長投資補助金の記事は、基金設置法人を公募する制度で、中堅・中小企業が直接申請する制度ではありません。名前に「賃上げ」と付く国の補助金には、このように事業者が直接申請できないものもあります。
補助金の個別の記事は省力化は省力化投資補助金の記事、デジタル化・AI導入はデジタル化・AI導入補助金(通常枠)の記事、成長加速化は中小企業成長加速化補助金の記事で確かめられます。
賃上げを約束して採択された場合に、約束を守れなかったときの扱いは制度ごとに違います。東京都中小企業振興公社の創意工夫チャレンジ促進事業(賃上げ重点コース)は、賃金引上げ計画を達成できなかった場合、助成率が3分の2以内に下がると書いています。公募要領は、申請の前に賃上げが未達だった場合の項まで読みます。
賃上げ促進税制(令和8年度)
賃上げ促進税制は青色申告をしている企業や個人事業主が、前の年度より給与等の支給額を増やしたときに、増えた額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から引く制度です。お金が振り込まれるわけではなく、納める税金が減ります。
中小企業向けの控除率
中小企業庁の令和8年度の案内(令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度が対象。個人事業主は令和9年分)では中小企業者等と、従業員1,000人以下の個人事業主の控除率は次のとおりです。
| 全雇用者の給与等支給額(前年度比) | 税額控除率 |
|---|---|
| 1.5%以上の増加 | 15% |
| 2.5%以上の増加 | 30% |
| 上乗せ:くるみん認定以上またはえるぼし認定2段階目以上 | さらに5%(最大35%) |
中小企業者等とは、資本金または出資金が1億円以下の法人などです。ただし、同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人などは対象外です。前3事業年度の所得金額の平均が15億円を超える法人も対象外です。
給与等の支給額にはパート、アルバイト、日雇い労働者の分も含みます。役員と、その親族など特殊関係者の分は含みません。
税額控除の上限は、法人税額(個人事業主は所得税額)の20%です。控除しきれなかった額は、5年間繰り越せます。繰り越した額を使えるのは、その年度も全雇用者の給与等支給額が前年度より増えている場合に限られ、繰り越すたびに明細書の提出も要ります。
令和8年度の変更点
令和7年度末で教育訓練費に係る上乗せ措置(教育訓練費が前年度より5%以上増えたとき、控除率を10%上乗せする措置)は廃止されました。この措置は法人は令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する事業年度、個人事業主は令和7年と令和8年で使えます。
なお、中小企業は要件を満たせば、中堅企業向けの制度を使うこともできます。中堅企業向けは従業員2,000人以下の企業が対象で、継続雇用者の給与等支給額が前年度より4%増えると10%、5%増えると15%、6%増えると25%の控除率になります。プラチナくるみん認定か、えるぼし認定の3段階目以上なら、5%が上乗せされます。
従業員が2,000人を超える大きな会社の扱いは、中小企業庁の案内には載っていませんでした。該当する場合は、経済産業省と国税庁の資料で確かめます。
計算例
前年度の給与等の支給額が5,000万円の会社が、適用年度に5,200万円を払った場合を考えます。増加額は200万円で、増加率は4.0%です。2.5%以上なので控除率は30%、税額控除は200万円×30%=60万円です。
法人税額が200万円の会社なら、上限は法人税額の20%の40万円です。この場合の控除は40万円までで、残りの20万円は翌年度以降に繰り越せます。給与が1.5%だけ増えた場合は、5,000万円が5,075万円になり、増加額75万円×15%=11.25万円です。
助成金との関係
賃上げ促進税制の計算では給与の負担を軽くするための補助金や助成金の額(補塡額)を、給与等の支給額から引きます。中小企業庁の中小企業向けガイドブックに、キャリアアップ助成金(正社員化コース、障害者正社員化コース、賃金規定等改定コース)が補塡額に当たる国の助成金の例として載っています。ただし、給与等の支給額に対応する交付額に限ります。
つまり、キャリアアップ助成金をもらった年度は、その分だけ税制の増加額が小さく計算されることがあります。雇用調整助成金などの雇用安定助成金額は、この引き算とは別の計算で扱われます。業務改善助成金は、同じガイドブックの例に載っていませんでした。個別の判断は、税務署か顧問の税理士に確かめます。
最低賃金の引き上げに対応する支援と相談窓口
令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均が1,177円になりました。中小企業庁は、引き上げ幅が過去2番目だったと発表しています。地域別最低賃金の発効日は、都道府県ごとに違います。
最低賃金を下回って払っていた場合は、差額を速やかに払う必要があります。払わなければ、最低賃金法の違反として50万円以下の罰金の対象になります。中小企業庁の特設サイトのよくある質問には、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、時間外・休日・深夜の割増賃金は最低賃金の対象にならないので、除いて計算すると書かれています。家族だけで営む事業の同居の親族は、労働者に当たらず最低賃金は適用されません。ただし、労働者として雇っているなら適用されます。
最低賃金の引き上げへの対応策は、国の窓口に集まっています。
- よろず支援拠点、働き方改革推進支援センターなどの相談窓口(中小企業庁の案内に載っている窓口)
- 専門家派遣・相談等支援事業:中小企業の労働条件管理や生産性向上の相談に、ワン・ストップで無料で対応する窓口(厚労省と中小企業庁が連携)
- 業務改善助成金:設備投資などで生産性を上げ、事業場内最低賃金を上げる事業者向け
- 業種別団体向けの助成:業界全体で生産性向上と賃金引上げを目指す事業主団体の市場調査などに出る助成(働き方改革推進支援助成金の団体推進コース)
- 各都道府県の賃金引上げ支援施策:厚労省がPDFにまとめている(独自の支援施策や、業務改善助成金の上乗せ補助など)
「最低賃金 補助金」「最低賃金 助成金」で探す制度は、多くの場合、このうちの業務改善助成金です。Jグランツでは、業務改善助成金が「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)」という名前で登録されています。名前に「補助金」と付いていても、申請先は労働局の助成金です。
個人事業主・大企業・介護や医療の事業所は使えるか
個人事業主
個人事業主も、従業員を雇っていれば使える制度があります。業務改善助成金は中小企業・小規模事業者が対象で、労働者がいない場合は対象外です。引き上げる労働者は雇用保険の被保険者である必要があるため、雇用保険に入っている従業員がいない事業所は、実質的に使えません。
賃上げ促進税制は、青色申告をしていて常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主が対象です。令和8年度改正後の案内では、個人事業主は令和9年が対象と書かれています。令和7年分と令和8年分は、教育訓練費の上乗せがある改正前の制度で申告できます。給与の支払いが家族の専従者だけの場合の扱いは、中小企業庁の資料に載っておらず、確認できませんでした。税務署に尋ねます。
大企業・みなし大企業
業務改善助成金は中小企業・小規模事業者が対象で、みなし大企業も対象外です。キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金、人材確保等支援助成金などは、中小企業と大企業の両方が使えます。額は大企業のほうが低く設定されています。
介護・医療・薬局
介護職員の賃上げは、都道府県が申請を受ける補助事業が見つかります。岐阜県のページには県が国の「医療・介護等支援パッケージ」に基づき、介護従事者に対する賃上げの支援と職場環境の改善を促す補助事業を実施していると書かれています。申請期限、対象期間、振込日は、県ごとに違います。国の一律の制度としての窓口は、確認できませんでした。
医療機関、診療所、薬局には、賃上げ・物価高騰への支援金を都道府県が出す例があります。東京都の薬局向けの支援金、東京都の診療所・歯科診療所向けの支援金、岡山県の診療所等賃上げ対策補助金は、いずれも受付期間が終わった制度です。内容は東京都の薬局の記事、東京都の診療所の記事、岡山県の診療所の記事で確認できます。
介護報酬や診療報酬は、賃上げ促進税制でも扱いが違います。看護職員処遇改善評価料や介護職員処遇改善加算のように、公定価格に含まれる額は「補塡額」に当たらず、給与等の支給額から引かれません。
都道府県・市区町村の賃上げ補助金
自治体の賃上げ支援は、大きく3つの型に分かれます。
- 賃上げ環境整備型:生産性向上や設備投資の費用を補助し、賃上げを条件にする(北海道、長野県、京都市、広島県などの賃上げ環境整備の補助金)
- 賃上げ額に応じた支援金:賃金を上げた額や人数に応じて定額を出す(神奈川県の賃金アップ支援金、山形県の賃金引上げ緊急支援事業など)
- 業務改善助成金の上乗せ:国の業務改善助成金を使う事業者に、自治体が上乗せする(大阪府の業務改善・賃上げ促進補助金)
制度の名前と金額は年度ごとに変わります。賃上げの名が付く制度は青森県、岩手県、群馬県、福岡県、京都市、山口県防府市、福岡県北九州市など、都道府県と市町村がそれぞれ設けています。この記事の下にある全国の一覧が、制度データから組み立てた状態です。
一覧に、「【青森】」「【沖縄】」のように県名が付いた業務改善助成金が並ぶことがあります。厚労省のページによると令和8年度から、業務改善助成金のJグランツの申請フォームが、事業場の所在地の都道府県ごとに分かれたためです。県ごとに別の制度があるわけではなく、どの県の事業場も同じ交付要綱で審査されます。
北海道・東京都・大阪府・石川県の例
北海道は「賃上げ環境整備補助金2026」の公募が、予算の上限に達して令和8年8月10日に締め切られています。事務局のページには、申請の要件にパートナーシップ構築宣言ポータルサイトへの登録が入っていると書かれています。採択者リストは事務局のページで更新されます。詳しくは北海道の賃上げ環境整備補助金の記事にあります。
東京都は、東京都中小企業振興公社の「経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業(賃上げ重点コース)」があります。賃金引上げ計画を立てる都内の中小企業等で、直近の決算期の営業利益が前期より減ったか、損失を計上した事業者が対象です。助成限度額は600万円、助成率は対象経費の4分の3以内(小規模事業者は5分の4以内)です。申請はJグランツで、GビズIDプライムが要ります。詳しくは東京都の創意工夫チャレンジ促進事業の記事にあります。
大阪府は国の業務改善助成金を使う事業者に、補助対象経費の4分の1(200万円が上限)を府が補助します。事前登録の受付が令和8年9月30日で終わり、登録した事業者は、令和8年12月1日から令和9年3月10日の間に交付申請をします。国の助成金の交付額確定の通知を令和9年3月5日までに受けることが条件です。大阪府の業務改善・賃上げ促進補助金の記事で内容を確かめられます。
石川県で「賃上げに向けた経営体制強化支援補助金」の名前で探しても、実績報告の期限が2024年2月29日で終わった過去の制度しか出てきません。過去の制度は石川県の経営体制強化補助金の記事にまとめています。
令和8年度に使える石川県の制度は、国の業務改善助成金に上乗せする「石川県業務改善奨励金」です。国の助成金を受けた県内の中小企業等に、国の助成金の自己負担分の2分の1(上限あり)が出ます。令和8年度の業務改善助成金を申請した事業者も対象で、国の確定通知を令和9年2月26日までに受けていることが条件です。詳しくは石川県業務改善奨励金の記事にあります。金沢市には、市内の中小企業の賃上げを支える金沢市中小企業賃金引上げ奨励金もあります。予算の上限に達すると申請の締切前でも受付が終わるため、申請の前に市に確かめます。
自分の自治体の制度を探す
- 厚労省の「最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援事業」のページにある「各都道府県の賃金引上げ支援施策について」(PDF、令和7年7月更新)
- 都道府県の産業労働部や労働政策課のホームページ(「賃上げ」「業務改善」で検索する)
- 市区町村の商工担当課や商工会議所(物価高騰対策の交付金を使った支援金が、市区町村ごとに設けられている)
県の制度と市の制度は別々に募集されます。重ねて申請できるかは、県と市の両方の要綱で確かめます。
賃上げ補助金は併用できるか
併用の可否は、組み合わせごとに決まりがあります。
- 業務改善助成金と他の助成金:同一の設備投資等に要する費用ではなければ受けられますが、目的が重なると併給調整の対象になります。業務改善助成金で賃上げの対象にした労働者は、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の支給対象の人数に数えられません。公益財団法人などから、同一の設備投資に助成を受ける場合も、併せて受けられません。
- 助成金と賃上げ促進税制:重ねて使えますが、給与の支給額に対応する助成金は、税制の計算で給与等の支給額から引かれます。
- 国の助成金と自治体の上乗せ:大阪府のように、国の助成金を使うことを前提に府が上乗せする制度もあります。国の助成金の交付額の確定が条件なので、国の申請が先です。
- 補助金と補助金:同じ設備に複数の補助金を使えるかは、制度ごとの公募要領で決まります。業務改善助成金のQ&Aには、目的が重なる場合は併給調整の対象になると書かれています。契約の前に、両方の事務局に尋ねます。
賃上げに使える主な補助金の金額
国の制度と、上限の大きい都道府県の制度を上限額で比べた表です(制度名を押すと下の全国一覧のその制度へ移ります)。なお、業務改善助成金の600万円は上の章のとおり特例事業者が10人以上の賃金を引き上げた場合の上限で、特例事業者でない事業者の上限は450万円です。
